よく言われるように、インターネットはここ5年間で大きな変化を遂げました。分散型台帳、NFL、クロスプラットフォームメタバースなどの新しいテクノロジーが大いに話題になっていますが、香港、サンフランシスコ、ロンドンのWeb3コミュニティとの交流がない限り、このようなテクノロジーは一般の開発者には敷居が高いものとなっています。アプリを実行するだけでも、分散型ノードの実行方法を理解して難解な開発環境をセットアップし、チェーンに関する最新情報を把握しておく必要があるからです。しかし、それも今日まで。本日から、イーサリアムとIPFSゲートウェイをはじめとする当社Web3製品スイートのプライベートベータ版にサインアップいただけます。
詳しい説明を行う前に、ブロックチェーン(当社の例ではイーサリアム)とInterPlanetary FileSystem(IPFS)について簡単に説明します。Web3の設定では、イーサリアムをコンピュートレイヤー、IPFSをストレージレイヤーとして考えることができます。イーサリアムは、分散型台帳技術の活用により検証可能な分散型コンピューティングを提供します。「スマートコントラクト」と呼ばれる公開バイナリーは、ユーザーがインスタンス化して、一連の不変レコード上でオペレーションを実行することができます。この一連のレコードがブロックチェーンの状態になっています。ブロックチェーンは、検証とコンピューティングに参加できるよう、ネットワークの各ノードで維持しなければなりません。そのため、大量のデータ上でオペレーションを実行すると大変なコストがかかります。よくあるパターンは、IPFSを外部ストレージソリューションとして活用することです。IPFSは、分散型ファイルシステム上でコンテンツを保存するためのピアツーピアのネットワークです。コンテンツはハッシュで識別され、ブロックチェーンコンテキストから参照するためにかかる費用も低く抑えられます。
Web3の仕組みについてより詳細に理解したい方は、Cloudflareの他のブログ投稿(「Web3とは?」と「Cloudflare WorkersでWeb3 Dapps(分散型アプリ)を作る」)をご覧ください。
Web 3とメタバース
過去4年間、CloudflareはWeb 3サービスへのアクセスをグローバルな規模で提供するのに必要なテクノロジーの成熟に尽力してきましたが、その間にメタバースという概念が再び注目を集めるようになりました。『スノウ・クラッシュ』や『ゲームウォーズ(原題:Ready Player One)』といった小説で広く知られるようになったこの概念はシンプルなものです。アプリを開始するとお気に入りのデジタルグッズが(購入場所を問わず)すべて利用できるようになるインターネットを想像してみてください。全世界ライセンスを付与することなく作品をソーシャルメディアで販売したり、買い手がそれを自分のオンラインゲームで使えたりもします。メタバースでは、著作権や所有権はIPFSに保存されたNFT(Non-Fungible Token)によって管理され、イーサリアムを通してトラストレスにアクセスされます。ここでは、普通のクリエーターが自作コンテンツを簡単にマネタイズでき、プラットフォームに関係なく誰もが使えるようにできます。コンテンツが「壁に囲まれた庭(=クローズドプラットフォーム)」ではなく、オープン標準を使った分散型エコシステムに保存されるからです。
これが、ユーザーとコンテンツクリエーターのインターネットについての考え方を変化させました。考察すべきは「アプリケーションを構築するために、サーバーを含むモデルビューコントローラーシステムは必要か?」、「複数のプラットフォームに広がるWebリソースに一貫したネーミングを提供する最善の方法は?」、「自社データをロックして別の会社のシステムに置いておくのは本当に必要なことか、エンドユーザーが自身のデータを所有することはできるか?」といった点で、信頼(トラスト)の想定が異なってきます。ユーザーのデータを保持できる唯一の会社だからという理由で1社を信頼するのではなく、全参加者によって検証可能なソースを利用して信頼を構築するのです。たとえば、メッセージングアプリケーションであれば物理的交流のある人、Webサイトであれば証明書の透明性に関する公開ログに記録されたX.509証明書、配信用アプリケーションであればブロックチェーンとインタラクトする公開鍵などです。
ワクワクするような時代です。しかし、インターネットが登場した時とは異なり、既に確立された大企業が、Web3とメタバースの形成や方向をコントロールしたいと考えています。Cloudflareでは分散型のプライベートWebの未来を信じています。どの企業からも中央集権化した勢力からも独立した、標準に基づくオープンなWebです。Cloudflareも、Web3と拡大するメタバースエコシステムをサポートする多数の技術プラットフォームの1つになれると信じています。このような理由から、イーサリアムとIPFSゲートウェイのプライベートベータ版を発表できることを本当に嬉しく思います。これらのテクノロジーはWeb3やそのメタバースの最前線にあるものです。
昨年1年間は、折にふれてお客様からWeb3の開拓のサポートを依頼され、お客様のコア製品サービスのサポートを頼まれることも少なくありませんでした。Cloudflareでは、お客様の好まれる技術スタックを問わず、みなさまにとってより良いインターネットの構築をお手伝いすることにコミットしています。Cloudflareはみなさまが使える道具になりたいと考えています。Web3とメタバースは単なる実験ではなく、まったく新しいネットワーキングのパラダイムで、今後築かれる多くの数十億ドル規模のビジネスの土台を成すものです。当社では、最初の完全なメタバースはすべてCloudflare上でイーサリアム、IPFS、RTC、R2ストレージ、Workersなどのシステムを使って構築できると信じています。もしかしたら、お客様がその構築者となるかもしれません。
Cloudflareではこのような創造のプロセスにWeb3コミュニティメンバーと共に挑戦できることを喜ばしく思っており、この他の当社の取り組みをご紹介できるのを楽しみにしています。
Cloudflare Web3ゲートウェイをご紹介します!
ゲートウェイはクライアント(ブラウザやモバイル端末など)と他のさまざまなシステムの間にあるコンピューターで、トラフィックを1つのプロトコルから別のプロトコルへの変換を助け、アプリケーションを動かしているシステムでリクエストの処理が必要な時に正確に処理できるようにします。しかし、現在はさまざまなタイプのゲートウェイが存在しています。
おそらく、APIゲートウェイという言葉を耳にしたことがあるかと思います。これは、アプリケーションに向かうAPIコールを受信するもので、リクエストに応えてエンドユーザーに適切な応答を返すために、然るべきサービスを集約します。Netflixの視聴にはいつもゲートウェイが使われています!同社はAPIゲートウェイを活用し、ストリーミングサービスにアクセスする何百もの個別デバイスが、適切な成功応答を受け取れるようにしています。これにより、エンドユーザーが番組を視聴することができるのです。ゲートウェイは、Web3を世界中すべての人が使えるようにするために不可欠なコンポーネントです。
Web3や分散型Webは、純粋な分散型システムとコンセンサスプロトコルを活用することにより、コンテンツとWebアプリケーションをサーバレス方式でホストできるようにする一連のテクノロジーです。ゲートウェイを使えば、プラグインをインストロールしたり、ノードと呼ばれる別個のソフトウェアを実行したりする必要なく、これらのアプリケーションをブラウザで使用できるようになります。分散型Webコミュニティも同様の問題に直面しており、HTTP リクエストを適切なWeb3機能やプロトコルに変換するための、安定性、信頼性、復元力の高い方法を必要としています。
本日、Cloudflare EthereumとIPFS Gatewaysを導入します。これらによって、開発者のみなさまは一番得意なアプリケーション開発に集中できるようになり、イーサリアム(Eth)やIPFSノードのサポートに必要なインフラストラクチャの運営については心配しなくても済みます。
既存のEth ゲートウェイやIPFS Webゲートウェイの問題とは?
HTTPなどの従来のWebテクノロジーは、サイトを高速、安全、利用可能なものにする標準やベストプラクティスを数十年かけて開発してきました。標準やベストプラクティスは、冗長性を重視するインターネットの分散型Webサイドではまだ開発されていません。Cloudflareでは、ゲートウェイを構築することにより、最適化とWebのインフラストラクチャを分散型Webに持ち込む機会を見出しました。このゲートウェイでは、HTTP側にはCloudflareの付加価値サービスを加えつつ、HTTP APIコールをIPFSやイーサリアムの機能に変換します。お客様はCloudflareでネットワークコントロールレイヤー全体を一括管理できますから、大いに便利になります。お客様はマーケティングサイト、分散型アプリケーション(Dapp)、企業セキュリティ対策について、DNS、ファイアウォール、負荷分散、レート制限、トンネルなどを1か所で管理することができます。
当社のお客様の多くは、Web3ゲートウェイのための既存ソリューションに、イーサリアムやIPFSネットワーク内で増え続けるリクエストを処理しきれるだけのネットワーク容量がありません。さらに重要なのは、大規模な稼働を行うために企業が期待したり必要とする程度の復元力や冗長性を持ち合わせていないことです。分散型Webは、まさにその名の通り、分散化された状態を保つという考え方で、単一のアクターがマーケット全体をコントロールすることはできません。スピード、セキュリティ、信頼性はCloudflareが中核に据えている価値です。Cloudflareが成長過程にあるWebインフラストラクチャコミュニティの一員となることで、Dapp開発者がより多くの選択肢、スケーラビリティ、信頼性をインフラストラクチャプロバイダーから得られるようになることを嬉しく思います。
わかりやすい例は、既存のゲートウェイに障害が発生した場合です。ゲートウェイの数が少なすぎてトラフィックが処理できない場合、この障害が発生すると前処理のトランザクションがアクセス先のブロックチェーンより遅れ、遅延が大きくなり、失敗につながる恐れがあります。分散型アプリケーション(Dapp)開発者がフロントエンドの稼働にIPFSを使っている場合はさらに厄介で、アプリケーション全体がフェイルオーバーしかねません。概して、企業もエンドユーザーもイライラを募らせることになります。企業は製品やサービスの収益の回収ができず、事業の一部を停止せざるを得ません。そして、自分のWeb3資産を管理するのにそうしたサービスの信頼性に依存していたエンドユーザーとの信頼関係が崩れてしまいます。
Cloudflareはこの問題をどのように解決しようとしているのか?
Web3コミュニティの中にCloudflareの従来の顧客ベースに酷似するセグメントがあり、そこにユニークな機会を見つけました。分散型Webです。このセグメントでは使い勝手に大きな問題がいくつかあり、Cloudflareは信頼性、パフォーマンス、キャッシングに関わる問題の解決をサポートできます。Cloudflareにはこの分野で他の会社にはない、そしてこの業界でもほとんどみられない利点があります。グローバルネットワークを有していることです。たとえば、当社のIPFS Gatewayを経由して取得したコンテンツは、ユーザーの近くでキャッシュでき、ダウンロード時の遅延を数ミリ秒以内に抑えることができます。ネイティブIPFSの使用時にはアセット毎に遅延が最大数秒になることと比較してみてください。このスピードのおかげで、IPFSベースのサービスをハイブリッドにすることができます。コンテンツはソース分散型プロトコルで配信することができます。一方、ブラウザとツールはプロトコルにアクセスできるよう成熟しつつあり、Clouflareのようなゲートウェイを通してWeb常用ユーザーに配信されます。当社では、この分散型コンテンツを閲覧するための便利で高速かつ安全なオプションを提供しています。
イーサリアムでは、ユーザーは2つに分類できます。スマートコントラクトを運営するアプリケーション開発者と、このコントラクトとのインターアクションを望むユーザーです。スマートコントラクトはコードに基づいて自律的に稼働しますが、ユーザーはデータを取得してトランザクションを送信しなければなりません。スマートコントラクトはチェーンの一部であるため、ネットワークについてやユーザーインターフェースがオンラインかどうかを心配しなくても済みます。分散型取引所が中断されることなく複数のインターフェース間で継続的に実行できるのは、このためです。一方、ユーザーはチェーンの状態を把握してインタラクションが可能である必要があります。ですから、アプリケーション開発者はユーザーにイーサリアムノードを実行するようを求めなければなりません。もしくは、標準化されたJSON RPC APIを通してリモートノードを使用するよう指示することができます。ここで登場するのがCloudflareです。Cloudflare Ethereumゲートウェイは、イーサリアムノードに依存してイーサリアムネットワークに安全で高速なインターフェースを提供します。ゲートウェイはイーサリアムチェーンのあらゆるコンテンツ部分とインタラクトできます。これには、NFTコントラクト、DeFiエクスチェンジ、ENSなどのネームサービスが含まれます。
ゲートウェイのこれまでの実績
Cloudflareではアルファ版を初期のお客様に調査実験としてリリースしましたが、以来、新しいゲートウェイテクノロジーを活用してCloudflareネットワークの可用性、復元力、キャッシング面のメリットを享受したいとお考えのお客様が驚くほど大勢おられます。
現在アルファ版を使用されているお客様は、ベンチャーキャピタルで数十億ドルの資本を調達した会社、イーサリアムの分散型金融エコシステムを稼働する会社、NFTテクノロジーを使った新興メタバースなどです。
実際に、2,000以上のお客様がCloudflareのIPFSゲートウェイを活用しており、それが月間275TB以上のトラフィックになっています。イーサリアムに関しては、200以上のお客様が月間16億件のリクエストをはじめ13TB以上のトランザクションを行っています。これらのお客様に関しては非常に安定した結果が出ており、当社がこの新製品を使用するお客様の数を増やすのに伴って、これらの指標は引き続き増大することが十分に予想されます。
イーサリアムとIPFSゲートウェイの両方についてプライベートベータ版の利用開始を発表できて、本当に嬉しく思っています。プライベートベータ版に参加するにはサインアップをしてください。間もなく当社チームからセットアップのご連絡をいたします!